
日経BP社
ベンチャー・サービス局
主任編集委員
中堅中小企業IT化支援プロジェクトリーダー
上村 孝樹
90年代後半以降、大手企業ではグループウェアを導入し、社員全員がメールアドレスを持ってビジネスを行う、IT活用によるコミュニケーションの革新が進んだ。その一方、中堅中小企業では、必要な社員全員がアドレスを持ち、顧客とやり取りする環境を構築しているかと問えば、そうでないと答える企業が多いのが現状だ。
しかし、21世紀を勝ち抜くためには、中堅中小企業がコミュニケーション革新によってビジネスのスピードアップを図り、生産性を向上させ、経営品質を高めることは必要不可欠であり、グループウェアはそのための戦略的なツールとなる。日経BP社主任編集委員・中堅中小企業IT化支援プロジェクトリーダー 上村 孝樹がグループウェア導入の戦略的意義や導入成功法などについて語った。

現在、多くの企業では、「業務処理の迅速化」と「コミュニケーションの円滑化」という2つの課題にITを活用している。前者については、ERPパッケージの導入で、中堅中小企業においても企業内外にわたる業務連携を進めようとしている。後者については、報告・連絡・相談・承認プロセス改革と情報の共有化・同時化をいかに円滑に行うかが重要なポイントになる。
このプロセスの円滑化に不可欠なものがグループウェアの活用だ。大手企業では、90年代半ば以降、グループウェアの導入で社内外のコミュニケーションの革新が進んだ。そこでは、社員1人ひとりがパソコンや携帯電話などの情報端末とメールアドレスを持ち、会社のホームページのURLも名刺に印刷している。
一方、中堅中小企業では、社員全員がメールアドレスを持っているケースは、まだそれほど多くない。部門もしくはグループ単位、あるいは全社で一つのアドレスを使っている企業も多い。この様な現状では、報告・連絡・相談、情報の同時共有などが十分に行えず、ビジネスのスピードが遅くなったり、対応も正しく行えない場合が出るなど、企業の信頼低下に直結しかねない。
グループウェアを活用すれば、従来の数倍のスピードでの顧客対応も可能になり、社内外のコミュニケーションも円滑に行え、顧客の信頼を損なう危険性も少なくなる。
また、グループウェアはワークフローベースの承認、回覧機能を備えている。これを活用すれば、社内の承認プロセスは大きくスピードアップできると同時に、プロセスの改善にもつながる。こうしたビジネスのスピードアップがグループウェアの1番目の効果である。
よくグループウェアは導入効果が見えにくいと言われることがある。しかし、その多くは組織全体での利用が徹底されていないことに原因がある。企業全体での利用が徹底されていないと、利用していない部署に仕事を合わせざるを得ない場合が生じ、効果は落ちてしまう。グループウェアを導入する際には、社員全員が利用可能な環境を整備する必要がある。

グループウェアの2番目の効果はビジネスにおける生産性を向上させる点だ。仕事の情報をうまく再活用することが、最良の提案を短時間で作り上げるポイントである。そのためには、情報を蓄積し、それを検索できるようにしておく必要がある。グループウェアでは、提案書や見積書などをデータベースに直接入れることもできるし、業務システムのデータベースの情報を検索できるようにすることもできる。これによって、ビジネスにおける生産性は確実に向上する。さらに再活用したものを蓄積していけば、データはさらにブラッシュアップされ、組織としてのナレッジやノウハウの活用に繋がっていく。
そして、グループウェアの3番目の効果は基幹システムとのデータ連携によって、正しい意思決定が迅速に行えるようになる点だ。最近では業務システムが増え、中堅中小企業でもオフコンやオープン系などのシステムが複数存在する。それぞれのシステムにデータベースが存在し、相互に接続されていないことも多い。このように、情報が分散したままでは、必要な情報を参照することができない、情報を引き出すのに時間がかかる、などの問題が生じ正確な情報に裏付けられた素早い意思決定が行えなくなってしまう。
グループウェアで複数の業務システムの情報を活用できるようにすれば、正確な情報に裏付けられた意思決定を行うことが可能になる。従来、基幹システムとのデータ連携のためのインターフェイス作りは、多大なコストと手間がかかっていた。しかし、最新のグループウェアはそのインターフェイスを簡単に作ることができる。複数の業務システムのデータを活用したグループウェアの導入で、誤りのない積極的なビジネス展開が実現する。


さらに、グループウェアの4番目の効果はコミュニケーション・チャネルの統合によって顧客満足度を向上させる点だ。最近、顧客とのコミュニケーションは、インターネット、電話とコンピュータを連動させるコンタクトセンターなど、チャネルの多様化が進んでいる。その結果、やり取りの情報が拡散し、顧客への対応にミスマッチを起こしてしまう可能性がある。
これに対して、グループウェアは一連の顧客とのやり取り情報を一元化して統合することができる。これはユニファイド・メッセージングといわれるが、IP電話まで含めて情報を統合することで、すべてのチャネルにわたる顧客とのコミュニケーション内容を一元的に蓄積、これをグループウェアで活用することによって、顧客との長期にわたる信頼関係を築いていくことが可能になる。グループウェアは、これから求められるOne to One型の「個客満足度」を向上させていくために不可欠な基盤なのである。
「ここまでグループウェアの主な導入効果として、以下の4点を見てきた。
1.ビジネスにおけるスピードアップ
2.ビジネスにおける生産性を向上させる
3.基幹システムとのデータ連携によって、正しい意思決定が迅速に行える
4.コミュニケーション・チャネルの統合によって顧客満足度を向上させる
最後に先進的な中堅中小企業におけるグループウェアの活用例を見ていくことにしよう。」
最初はリネンサプライの販売事業で注目を集めている武蔵野(東京都小金井市)だ。顧客がリピートオーダーする事業を手がける同社は、顧客に対するレスポンスを迅速に正確に行うことで顧客満足度を高めることをビジネス戦略としている。その目標は、例えば、顧客の電話があってから30分以内に第一報を返すことだ。本社にオーダーや問い合わせがあった時に、担当営業でなければ答えられない場合、それをメールで担当者の携帯電話に発信し、30分以内に対応している。そのために、グループウェア「Lotus Notes」を全社的な情報基盤として活用。コミュニケーションの迅速化を図っている。
もう一つが、カーエアコン用コンプレッサーを製造するカルソニックハリソン(栃木県宇都宮市)だ。自動車メーカーやユーザー、従業員や仕入れ先まで含めた全方位型の顧客満足度経営を実現する同社は、経営の状況を全社員が把握するなど情報公開を徹底している。そのために、基幹システムの情報を抽出、グループウェア「Lotus Notes」で閲覧できるようにし、業務の状況を全社員に周知徹底させ、経営品質向上の基盤として役立てている。
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カルソニックハリソンの情報システム構成 |
出典:日経アドバンテージ2004年1月号 |
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日本経営品質賞 中小規模部門の受賞履歴 |
出典:日経アドバンテージ2004年1月号 |
両社とも日本経営品質賞の中小規模部門受賞企業であるが、グループウェアの活用の仕方については参考になる点が多い。
このようなグループウェアの活用によって、企業はビジネスのスピードアップと生産性の向上だけにとどまらず、基幹システムとの連携やメッセージ統合などで、これからの競争力強化のために求められる課題を、最小限の投資によって実現することができるのである。


