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養老孟司のデジタル昆虫記
プロフィール

日経BP社出版局にて単行本の編集を担当
養老孟司先生とは、10年近くお仕事をさせていただいており、国内はもとより、マレーシア・キャメロンハイランドまで採集旅行にお付き合いする編集者の鏡(養老先生いわく、「彼の場合、仕事にかこつけて遊んでいるだけだよ」)。
養老先生のムシの本『私の脳はなぜ蟲が好きか』『養老孟司のデジタル昆虫図鑑』を日経BP社より発行

柳瀬博一のタイ同行記

第1回 不安と期待を胸に4500kmの旅にいざ出発編

成田空港出発

2006年9月18日朝。男たちが成田に集結した。行き先はタイの東北部。
そこになにがあるのか? もちろん、ムシです!

ムシ仲間の名古屋の東山公園協会の林昌利先生が長年フィールドを開拓してきたタイの東北部奥地に、ゾウムシを求めて旅立つことになりました。で、それにお供するのが、わたくし柳瀬(養老先生担当編集者・国内各地からマレーシアまで養老先生のムシ採りに同行経験あり)、斎藤(養老先生広告担当・奄美大島まで養老先生のムシ採りに同行し、ムシ採りの楽しさに目覚める)、カメラマン高田(ムシ採り歴ゼロ)、の3人。

左から、養老先生、柳瀬、斎藤

タイの奥地、といえば鬱蒼たるジャングル。奥深い森林を縫うように川がゆったりと蛇行し、おお、象の親子が川を渡っているぞ。甲高い声がするっ! 頭上の梢にサルの群れだっ! 足もとを気をつけろ。キングコブラが潜んでいるやもしれぬ。さあ、そんな未開の地、タイ東北部へ! がんがん採るぞ! ムシ。
……などと〝ドリフの探検隊〟的な妄想を膨らませていた柳瀬と斎藤。が、養老さんがひとこと。
「うーん、たぶんこの時期、あんまりムシ、採れないんじゃないですか」
え、養老先生、いきなり水を差すようなことを(汗)
「いままで、タイや東南アジア、何度も入っているんだけど、ゾウムシ、そんなに採れないんだよね」
そ、そんな。
「ま、あんまり期待しないで、のんびりいきましょう」
……。
養老先生のひとことに、ジャングル奥地で綺麗な熱帯のムシをじゃんじゃん採っている絵図を描いていた我々3人は、不安な面持ちで飛行機に乗り込むのでした。

おお、あそこに早くも大きなムシが!?
思わず注視する3人・・・なわけないですね。
まだ成田です。

タイ、バンコク国際空港に到着。

午後5時30分。成田から6時間。バンコクに到着です。
空港ではすでに別便で到着していた林先生がお出迎え。タマムシ(玉虫厨子で有名な宝石のようにきれいなムシです★写真)の研究で昆虫学会では有名なお方です。林先生、よろしくお願いいたします。3日間、ガイドと通訳を務めてくれるのはシュワリットさん。日本の大学で日本語を学んだそうで、それは流暢な日本語を話します。

ところで、林先生、これからどうやってタイ東北部に行くんですか?
「ワンボックスワゴンを2台レンタルしたので、これで国道を一気に走っていきます」
どのくらいの時間が?
「そうですねえ、だいたい6時間くらい、かな」
……6時間。成田—バンコクの所要時間と変わらんですな。
「バンコクからだいたい450キロは離れてますからね」
……450キロ。東京からざっと京都くらいでしょうか。

空港の外に出ると、湿気を帯びた熱気が顔を洗います。うーむ、熱帯に来た感が。車2台に分乗して、さあ450キロ先にある目的地に出発です。
養老先生と林先生はシュワリットさんとともに1台目に。我々お供組は、ガイド助手の男性がハンドルを握り、タイの大学で昆虫学を研究する女子学生が助手席に座った2台目に。

それにしても、6時間か。450キロか……。

左から、、斎藤、林先生、養老先生、ガイドのシュワリットさん

バンコク郊外にあるドンムアン空港を出ると、すぐに片道3車線のひろびろとした国に出て、ひたすら走り続けます。
タイの国道は広い! かつてベトナム戦争で米軍が補給路として使ったこともあり、立派な道路ができあがった、と聞きました。たしかに、アメリカの田舎道みたいです。景色も360度ひらべったい大地が広がっていて、地平線が見えそう。ここが大陸であることを意識させられます。
広い道路のおかげで、けっこう交通量があるにもかかわらず、車の流れはスムーズ。……というかスムーズすぎるな。というか、運転手さん、いったい何キロ出てるんですか。

130キロ。

……あの、ちょっと飛ばしすぎでは?

運転手さん、日本語できません(汗)。ニコニコしながら、かっ飛ばしていきます。
と、我々の脇をさらにスピードを上げた小型トラックが追い抜いていきます。
すると運転手さん、負けじとアクセルオン! すぐにトラックのうしろにつき、スリップストリームへ。そして華麗に右から抜き返すって、レースじゃないんですからっ。
どうやら、タイではこの程度のスピードで走るのは当たり前のようです。それにしても、この勢いで一気に450キロつっきるつもりなのか? 

空港を出てから3時間後。

すでに真っ暗になった午後8時半。車は国道脇に突然現れた大きなレストランに入りました。後部座席にただ座ってただけなのに、ああ疲れた。養老先生は、あたりをゆったり見渡しながら、タバコに火をつけて、一服中。
「先生、けっこうクルマ、飛ばしてましたよねえ」
「うん、まあそうだね」
どんなときにも泰然自若、落ち着きはらってにこにこしている養老先生。大人です。

さて、このレストラン。
レストラン、といっても屋根だけの倉庫に屋台が並んでいるだけの代物。この手の店は、日本の場合、まず「まずい」というのが相場です。足もとには野良犬がねそべってたりする(タイはとにかく野良犬天国!)し、壁にはヤモリが壁紙の模様のように何匹もくっついています。
今回初のタイ料理。さて、どんな味かな、とあまり気乗りもせず、セルフサービスで、クイッティオと呼ばれるタイのきしめんを頼んだら……うまいっ!
「おいしいねえ」
養老先生も舌鼓を打ちます。
麺もさることながら、香辛料がいい塩梅で効いている。いや、ちょっと効きすぎか。さすがタイ。口の中が辛くなってきた。水、水。
「おっと、水はいかんですな」
そうなんですか、林先生。
「おなかこわしたりしますから、こっちをどうぞ」
どん、とテーブルに置かれたのはコーラ! ご飯にコーラか。でも、熱帯の国では、この「ご飯にコーラ」が存外合うんですな。さすが、タイで何度となく昆虫採集をしてきた林先生です。
ふう。
おなかもいっぱいになったし、あと2時間半、走るといたしますか。

やっと到着!!!意外に都会なコンケンシティ

途中、前がまったく見えないほどの稲妻つき大豪雨に見舞われながらも、まったくスピードを落とすことなく、夜10時すぎ、ようやく今回の拠点となるタイ東北部の都市、コンケンに到着です。
おや、けっこう大きな町じゃないですか。夜遅いのに、ひとが街をいっぱい闊歩している。路上には屋台がいくつも並んでいる。
なんでも人口16万人で東北部では最大の街だそうです。
ホテルも存外ゴージャス。
「立派なホテルだね」と養老先生も意外なご様子。
ジャングルにムシを採りに行く!という頭だった我々は、もっと粗末な宿をイメージしていたのですが、東京のシティホテル並みの様相です。なんとメールも無線LANまである! 
こんな街中でムシなんか、採れるのでしょうか?
「大丈夫ですよ、明日は8時に車で採集旅行に出発です」と林先生。
今日はさっさと寝て、明日の採集に備えましょう。

さあ虫採りに出発!

翌朝、6時に起きてバイキング方式の朝食をとったのち、いよいよ虫採りに出発です。「クルマで100キロほど奥に行きます」
さらに100キロ! やっぱりこんな街中じゃ、ムシは採れそうにないですもんね。雨が心配だったのですが(この時期は雨季の末期です)、天気もよさそう。さあ、ジャングルだジャングルだ、虫採りサファリのはじまりだ。

……運転手さん、昨日にもまして飛ばしてます。こんなに飛ばして、事故とかないのかな。みんな運転、うまそうだもんな。まあ、だったら大丈夫か。
と、前方の中央分離帯に大型トラックが。……横転してます。
……大丈夫じゃ、ないじゃん(涙)

次回 第2回 に続く

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