

どれほどIT機器が進化しようとも、人の「話を聞く」こと、人前で「話をする」ことが、ビジネスコミュニケーションの基本であることに変わりはない。だが、それを苦手とするビジネスパーソンは案外少なくない。営業マン向けの研修や講演を数多く手掛けている株式会社ペリエ 代表取締役 和田裕美氏に、人の心を動かす話し方、プレゼンテーションをスムーズに進めるためのポイントについて、話を伺った。
世界No.2の営業から、営業マン育成ビジネスへ
和田裕美氏が、フルコミッション(完全歩合制)営業の世界に飛び込んだのは、24歳の時だった。入社1年目にして、プレゼンした顧客の95パーセントから契約を取るという驚異的な成約率で、当時勤務していた外資系教育会社の世界142カ国中第2位という成績を上げ、トントン拍子に出世して女性初史上最年少の代理店支社長となる。しかし、その後の和田氏の歩みは必ずしも順風満帆ではなかった。
本社の決定により代理店制度は廃止。悩んだ末、本社に正社員として残ることにした和田氏は、様々な役職を経て営業部長となり、数多くの営業マンを育てる。しかし、今度は日本支社の解散が決まる。会社が運営していた英会話スクールの生徒の受け入れ先探しや、社員の新しい職場探しに奔走しているうちに解散の日がやってきた。
「人の面倒を見るのに精一杯で、自分のために何かを準備する時間などありませんでしたね。ペリエという会社は、私が代理店支社長をしていた時代に作った会社です。ペリエという名前は、音が良いという理由で当時の部下が付けてくれたのですが、本社に入って固定給勤務になってからは、休眠させていました。勤めていた会社がなくなったとき、私に残ったのは休眠会社だったペリエと、営業マンをトレーニングするというノウハウだけだったのです」(和田氏)。
「営業セミナーやります」と書いた手作りのチラシを、異業種交流会に持ち込んで配るところから新たに出発した和田氏だったが、実績とスキルの高さが注目を集め、現在では、大企業から中小企業まで数多くの企業向けのコンサルティングや、営業向けセミナー、コミュニケーション能力を高めるセミナーや講演を行うなど、多忙な日々を送っている。
「伝える力」を高めるには「表現能力」を磨くこと
月に6~10回は講演やセミナーをこなす和田氏だが、意外にも「引っ込み思案で、話をするのは得意な方ではない」と言う。元々話すことが得意でないからこそ、「話す」こと、「相手に伝える」とはどういうことなのかを徹底的に考え、「上手く伝える」にはどうしたらよいか、研究を重ねてきたのだと言う。
「商品やサービスの説明では、相手の知識がゼロである場合には、まず、自分たちの会社を紹介するところから始めます。次に問題を提起して、それをどう解決するかという順で話を進めていきます。たとえば、『今、ビジネスマンの鬱(うつ)が社会的に大きな問題になっていますよね』と、問題を提起する。聞き手は『そうだ、そうだ』と思う。そこへ『私たちは、それを解決する手段を見つけました』と、続ける。すると、聞いている人は『どうやって解決するのだろう?』と思うわけです」(和田氏)。
相手の興味を惹くストーリー作りに加えて、もう一つ大切なのは「表現能力」だと和田氏は言う。「声のトーン一つ、言い方一つでも、伝わり方は変わります。『ここに冷たいアイスクリームがあります』と、淡々と読み上げるより、『ここに、キーンと冷えた、つめたぁーーいアイスクリームがあります』と声の調子にメリハリを付けて言う方が、相手はより具体的なイメージを思い描きやすい。大げさ過ぎてもいけませんが、聞き手に気分良く話を聞いてもらえるようにするには、表現能力を磨くことです」(和田氏)。
表現能力というのは、声のトーンや話し方だけにとどまらない。「私が駆け出しの営業だったころは、上司に『指先まで命を込めろ』と教えられました。お客様に契約書に記入していただく際に『どうぞ』と紙を差し出すのと、『どうぞ、ここにお名前からお書き下さい』と手を添えて言うのとでは、書き始めるまでの時間が明らかに違います」(和田氏)。視線はどこを見るのか、どのタイミングでパンフレットのページをめくっていくのか、小さな工夫を積み重ねることで、相手に伝わるものは大きく変わってくると和田氏は言う。
表現能力を高めるトレーニングの実際
こうした表現能力を磨くには、具体的にどうすればよいのだろう。「『恥ずかしい』という気持ちを捨てることです。私が代理店の支社長だった頃は、自分の部下の営業マンに、レストランでメニューを声に出して読むトレーニングをしてもらいました。『アツアツのシチュー』とか、『とろーりとろけるチーズのグラタン』というのを、気持ちを込めて読んでもらうのです」(和田氏)。
その人の資質によっても、トレーニングの方法は変わる。「表現能力というのは、個人によって大きな差があります。その人の育って来た環境にも影響されます。私が代理店の支社長をしていた時代の部下で、いつも表情が堅い女性がいました。何度注意してもなかなか直らない。あるとき、彼女の弟が入社してきたのですが、弟も表情が堅い。それでよくよく話を聞いてみると、お父さんが大変に厳しい家庭で、二人ともいつも緊張を強いられていたというのです。そのせいで、人前に出ると、いつも表情がこわばって怖い人に見えてしまうのです。彼女には、彼女自身が話している様子をビデオで撮影して、表情の作り方を研究してもらいました」(和田氏)。
もっとも、こうしたトレーニングは「フルコミッション営業という厳しい世界であったからできたこと」と和田氏は言う。結果が出せなければ営業マンはすぐに辞めてしまう。もう少しトレーニングすればこの人なら大きく伸びる、と思ってもそれを止められない。「営業マンも生活がかかっているから必死でしたが、教える私も必死でした」と、和田氏は当時を振り返る。
普通のビジネスパーソンが、ここまでのトレーニングをするのは難しい。それでは、もっと手軽に出来る方法はないのだろうか。「最初は、伝える力のある人、表現の上手い人の真似をすることから始めてみるといいですよ。テレビやラジオのアナウンサー、バラエティー番組などに出てくる芸人さんの話し方や表現なども、私はよく参考にしています」(和田氏)。

